入浴の方法について
完璧な入浴などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。
というわけで、生きるのって大変なので、楽に生きる方法を考えているのだけど、それはとても難しい課題なので、スモールステップで考えてみようということで、とりあえずお風呂の時間をより良いものにしてみたい。
「入浴とは、主に人が身体の清潔を保つことを目的として、湯や水・水蒸気などに身体を浸すことを指す。」が一般的な入浴だけど、ここでの入浴はちょっと違う。いやだいぶ違う。目的は体の清潔じゃなくて梵我一如の境地で、宇宙と一体になる技法としての入浴の話だ。って何を言っているのかよく分からないので、具体的な方法を見ていきます。
まず、浴槽にお湯をためる。ガツンとキメたい場合は温度は高め、そうでもない場合はぬるめ、要は何でもいいのだけど、お湯をためて体を浸したい。
次は、匂い。お香を焚くのがおすすめ。入浴剤とかバス・フレグランスとか専用のものがいろいろあってそれもいいのだけど、匂いってすぐに鼻が慣れてしまって、お湯全体から匂いが出ていると単調でつまらないので、お香を炊いて、匂いの濃淡から空気の揺らぎが感じられるのがいいように思う。あと、やっぱ、火の匂い、焦げる匂い、っていうのは、心の深いところを気持良くさせるように感じる。
で、照明。暗いのがいい。照明を全部落として、給湯器の操作パネルの液晶の光だけ、みたいな感じもいいけど、ここはやっぱりろうそくを持ち込みたい。もっと贅沢をいうと、石油パラフィンで作ったろうそくよりも、和紙+木蝋で作った和ろうそくのほうが、炎のゆらぎがきれい。もっともっと贅沢いうと、半露天で月明かりだけ、とか、焚き火・篝火の明かりもロマンチックで良さそうだけど、フィージビリティとの相談になってくる。というか、月明かりの下で風呂に入る、なんてことは大昔でもできてただろうに、なんで現代ではこんなに難しいんだ。
でまぁ、このあたりまではただの快適な入浴方法で、健康や美容に良さそうなゆるふわモテお風呂なのだけど、そんなことはどうでもよくて、というか、健康とか美容とかモテとかがどうでもよくなるような境地に至ることこそが目的なので、もうちょっと続きます。
次は音。音楽がいい。どんな曲がいいか。どうも重要なのはリズムであって旋律や歌詞ではないように思う。むしろ、歌詞が聞き取れて意味がとれてしまうような感じはよろしくないように思う。言葉の意味に引っ張られてしまうので。あと、思い出の染み付いた曲とかも、過去に引き戻されるのでよくない。意味を超えて現在過去未来の区別がなくなる感じを目指しています。で、説明しにくいので、プレイリストを作ってみた。入浴1セッションにぴったりの約90分。
これをお風呂の水面が波立つくらいの大音量で流したいところだけど、いろいろと難しいので、ポータブルスピーカーとかでできるだけ大きめの音で、それも難しい場合は防水イヤフォンとかを駆使して、できるだけ大きな音で聞きたい。
小田嶋隆さんが書いてたけど、
もしパチンコ屋の店内が世田谷美術館の館内みたいに静かだったら、パチンカーはちょっと困るはずだ。彼らはたぶん、自問自答をはじめる。「オレはどうしてこんなところにいるんだ?」「勝てる道理があるんだろうか」「オレは負け組なのか?」… 静かな台の前に座るパチンカーの心は千々に乱れる。そして、無心でいられなくなった時(あるいは、我に返った時)、勝負事は、勝負事でなくなる。アタマを空っぽにしていない人間が携わるギャンブルは、ただの散財だ。巨大な音の壁はそれに囲まれている人間の自我を曖昧にする。音の奔流の中にいる時、人は自他を区別しない。だから、周囲の人間の視線も気にならないし、他人の姿を見てあれこれ詮索することもしなくなる。本当にその通りだと思う。いい年したおっさんがお香を炊いて暗いお風呂に長時間入るなんてことはやってはいけないことなので、ぜひ音の壁で自我を曖昧にして、自他の区別をなくして、頭を空っぽにして無心にリズムを感じていただければと思います。
ちょっと話はそれるけど、お経って、サンスクリットの漢訳の日本読みなので、耳で聞いてそのまま意味が頭に入ってくる人はいないのだけど、これがずっと読まれ続けているのは、やっぱり意味の分からなさがいいんだと思う。単調なリズムで意味の分からない音を声にするのって、自他の区別を曖昧にして自我を溶かす効果があるんだろう、と。もちろん意味は意味で重要なので、それを法話、和讃、座談会みたいなものが担っているんだろうなぁ、と思ったりする。
話は戻ってお風呂、ここまでに、視覚は暗闇+ろうそく、聴覚は大音量、嗅覚はお香、触覚は全身温水、という具合に五感の中の4つはもうバカになっているのだけど、味覚が残っていて、これもどうせなのでバカになってほしい。酒、飴、ガム、歯磨き、いろいろ試してみたけど、これはなかなかいいのが思い浮かばない。喉が渇くので結局は冷たい水が一番気持ちいいように思うけど、どうかなぁ。
で、お風呂に入っているだけだと退屈なので、何かやることがあるといいのだけど、すでにやっていることがあって、それが呼吸で、呼吸法についてはヨーガ、禅、武道、医療、軍隊、…いろんな世界で蓄積があるようで、ググるだけでもおもしろい。基本は、思い切り吸って、ゆっくり細く吐ききる、なんだろうなぁ、と思う(そういえば読経もやっぱりこの呼吸だ)。で、お風呂の場合は、音楽のリズムに合わせて「1,2,3,4...」と数えながらするのもよさそう。
で、これをお湯の中、外、中、外を何度か繰り返していると、まぁ、たいていのことはどうでもよくなってきて、というか、実際問題、たいていのことはどうでもいいわけなので、というか、全部どうでもいいのかもしれないけど、いや、なんていうか、投げやりな気持ちではなく、いい意味で、どうでもよくなるのでおすすめです。