ルイス・フロイスの日本覚書

松田毅一&E・ヨリッセン(著)「フロイスの日本覚書―日本とヨーロッパの風習の違い」を読んだ。網野善彦の「日本の歴史をよみなおす」で紹介されてて興味をひかれて

フロイスというのは、イエズス会員として戦国時代の日本で宣教したポルトガル出身のカトリック宣教師ルイス・フロイス(1532年 - 1597年)のこと。

「われら(ヨーロッパ)は○○、日本人は○○。」という形式の箇条書きで、宗教、医療、建築、芸術、衣服から、酒の飲み方や鼻の穴のほじり方にいたる多様な話題についてフロイスが残した611項目のメモの邦訳に、松田毅一とE・ヨリッセンの解説と考察が添えられた本。

で、今の関心はもっぱら家族や結婚の話題なのだけど、関連するところでは、

ヨーロッパ日本
未婚女性の最高の栄誉と財産は貞操。処女の純潔を何ら重んじない。それを欠いても、栄誉も結婚(する資格)も失いはしない。
夫が前方を、妻が後方を歩む。夫が後方を、妻が前方を行く。
夫婦間において財産は共有である。各々が自分のわけまえを所有しており、ときには妻が夫に高利で貸しつける。
妻を離別することは、罪悪であることはともかく、最大の不名誉である。望みのまま幾人でも離別する。彼女たちはそれによって栄誉も結婚(する資格)も失いはしない。
堕落した本性にもとづいて、男たちが妻を離別する。しばしば妻たちのほうが夫を離別する。
娘や処女を(俗世から)隔離することは、はなはだ大問題であり、厳重である。娘たちは両親と相談することもなく、一日でも、また幾日でも、ひとりで行きたいところに行く。
妻は夫の許可なしに家から外出しない。夫に知らさず、自由に行きたいところに行く。
堕胎はおこなわれもするが、たびたびではない。日本では、いともふつうのことで、20回も堕ろした女性がいるほどである。
嬰児が生まれ後に殺されることなどめったにないか、またはほとんどなったくない。育てることができないと思うと、嬰児の首筋に足をのせて、すべて殺してしまう。
女性が文字を書く心得があまり普及していない。貴婦人においては、もしその心得がなければ格が下がるものとされる。
通常、女性が食事をつくる。それを男性が作る。
男性が高いテーブルで、そして女性が低いテーブルで食事する。女性が高い食卓で、男性が低い食卓で食事する。
女性が葡萄酒を飲むことは非礼なこととされる。(女性の飲酒が)非常に頻繁であり、祭礼においてはたびたび酩酊するまで飲む。
男性は、通常、妻と一緒に食事をする。そのようなことは非常に珍しい。というのは、食卓も(夫婦)別々だからである。

昔の日本では女性が抑圧されてたとか、貞操が重んじられていたとか、逆にヨーロッパでは、女性の地位の向上が早い時期からあったとか、性の開放が早かった、みたいになんとなく思っていたけど、それは近代の話で中世はむしろ逆だったんですね。

あと、それ以外にもおもしろい指摘がたくさんあって、
  • われらは、食欲のない病人に対して、つとめて無理にでも食べさせようとする。日本人は、それを残酷だとみなし、病人に食欲がなければ、そのまま死ぬにまかせる。
終末期の人工栄養の問題、まさに今議論されているけど、西洋と日本の死生観の違い、この頃からあるんですね。

あとおもしろかったのが、

  • われらにおいては、挨拶は落ち着いた厳粛な顔でおこなわれる。日本人はいつも必ず偽りの微笑でもって行う。 
  • われらにおいては、偽りの笑いは不真面目とみなされる。日本では、それは高尚でかつ品位に富むこととみなされる。 
  • ヨーロッパでは、言葉において明瞭さが求められ、曖昧さは避けられる。日本では、曖昧なのが一番よい言葉であり、最も重んぜられる。
  •  われらにおいては、他人から強要されることなく、各々が飲みたいだけ飲む。日本では、たがいにひどく無理に勧めあうので、ある者を吐かせ、ある者を前後不覚にさせることになる。
  •  われらにおいては、誰かが酩酊すると、それは大いなる恥辱であり不名誉である(のに)、日本ではそれが自慢の種である。 
500年たっても一緒。

で、キリスト教の宣教師だけあって仏僧へのコメントが辛口なんだけど、
  •  修道院の世俗的財産は、われらにおいては共有である。仏僧らは、みな自分の財産を有し、私腹を肥やすための金儲けに余念がない。 
  • われらにおいては、善良な聖職者は地位と名誉とが上がることを非常に嫌い恐れる。日本の仏僧たちは、多くの金になる(ことであり)、地位と名誉とが上がることを死ぬほどあこがれる。
これまた今でも通用しような...。

誇張や過度な一般化がたくさんありそうではあるけど、とてもユーモラスで簡潔で鋭くて、ものすごく面白かった。

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