プロパガンダの技法と東大話法


原発危機と「東大話法」―傍観者の論理・欺瞞の言語―」とてもおもしろかったです。
徹底的に不誠実で自己中心的でありながら、
抜群のバランス感覚で人々の好印象を維持し、
高度情報処理能力で不誠実さを隠蔽する。
学生のとき、先生や先輩、後輩にも「園さんのバランス感覚ってすごい」と言われたことがあります。序盤に出てくるこの言葉、これはまさに僕のことなんじゃないか、といきなり不安にさせられ一気に最後まで読みました。

書かれていることは、「その通り!」って思うことばかりで、たくさんうなずいたり、スカっとしたり、一方で、「わ、それ言ったことある...。」「それやってる...。」ということもあって、何度か冷や汗が出たりもしました。

いろいろ思ったことはありますが、プロパガンダ技法と東大話法の類似性について。

先日、Wikipedia の「プロパガンダ技術の種類」という項目を見ていたら(なんでそんな所読んでるのか...)、東大話法とそっくりな記述がありました。
  • レッテル貼り - 攻撃対象となる人や集団、国、民族にネガティブなイメージを押し付ける。 
  • 華麗な言葉による普遍化 - 対象となる人物や集団に、多くの人が普遍的価値を認めているような価値と認知度を植え付ける。 
  • 転移 - 多くの人が認めやすい権威を味方につける事で、自らの考えを正当化する試み。 
  • 証言利用 - 「信憑性がある」とされる人に語らせる事で、自らの主張に説得性を高めようとする。 
  • 平凡化 - コミュニケーションの送り手が受け手と同じような立場にあると思わせ、親近感を持たせようとする。
  • カードスタッキング - 自らの主張に都合のいい事柄を強調し、悪い事柄を隠蔽する。本来はトランプの「イカサマ」の意。情報操作が典型的例。マスコミ統制。
  • バンドワゴン - その事柄が世の中の権勢であるように宣伝する。人間は本能的に集団から疎外される事を恐れる性質があり、自らの主張が世の中の権勢であると錯覚させる事で引きつける事が出来る。
「レッテル貼り」は、「規則8 自分を傍観者と見なし、発言者を分類してレッテル貼りし、実体化して属性を勝手に設定し、解説する。」そのもの。「平凡化」は、「規則15 わけのわからない見せかけの自己批判によって、誠実さを演出する。」と似てます。「カードスタッキング」は「規則3 都合の悪いことは無視し、都合のよいことだけ返事をする。 」とか「規則13 自分の立場に沿って、都合のよい話を集める。」です。

英語版 Wikipedia の「プロパガンダ技術」にはもっと詳しくいろいろあって、たとえば、
  • Ad hominem人身攻撃
    「規則6 自分の問題を隠すために、同種の問題を持つ人を、力いっぱい批判する。」ですね。論点とは関係のない相手の人格を攻撃する手法。
  • Big Lie
    まさか嘘だとは思えないような巨大な嘘。原発の安全神話とかまさにそう。
  • False dilemma誤った白黒思考
    原発を推進するか、さもなくば江戸時代の生活水準に戻るか、って言ってる人がいました。
  • Cognitive dissonance認知的不協和
    人が自身の中で矛盾する認知を同時に抱えた時、行動や態度を変える、という性質を利用した手法。日本語版Wikipedia で例に挙げられているタバコの話、タバコを放射能汚染に置き換えてもそのまま読めます。
  • Half-truth
    定訳はないのかな、「半分の真実」。半分だけ伝える方法。「ただちに健康に影響が出るものではない(けど後は分からない。)」とか「(プルトニウムは知らないけど)ヨウ素の半減期は短い」とか。
  • Red herring (燻製ニシンの虚偽
    これはまさに「規則16 わけのわからない理屈を使って、相手をケムに巻き、自分の主張を正当化する。」ですね。
  • Scapegoating スケープゴート
    これは「規則10 スケープゴートを侮蔑することで、読者・聞き手を恫喝し、迎合的な態度を取らせる。」。
  • Straw manストローマン
    議論において対抗する者の意見を正しく引用しなかったり、歪められた内容に基づいて反論するという誤った論法、あるいはその歪められた架空の意見そのものを指す。藁人形論法ともいう。
他にもいろいろあって面白いです。このプロパガンダ技法に関して先駆的な本が、スコットランドの精神科医 James A.C. Brown の1963年の「Techniques of Persuasion: From Propaganda to Brainwashing」で、1966年に邦訳も出ていて「説得の技術―宣伝から洗脳まで」だそうです。

この、東大話法っていうのは言い換えると、プロパガンダの技法が高度に盛り込まれた話法、なんですね。他にも、説得の話法、詐偽の話法、洗脳の話法 、宣伝・広告の話法、とも言えるかと思います。共通するのは、この話法がもたらすのが、対等でない関係性、支配/被支配の関係性、創発を妨げる関係性、であるということでしょうか。東大話法というのは、古典的なプロパガンダ技法と日本の立場主義のシナジーによって生まれた欺瞞の話法、ですね。

ところで、東大話法の話者はなぜこんな話法を使うのか、と考えてみるとよくわかりません。誰かを特定の方向に導きたくてこんなことをしているのか、と考えるとそうじゃないような気がするんです。東大話法話者がプロパガンディストかっていうと、そんな立派なものにはどうも見えません。
誰かに東大話法を使われて、搾取されてしまうと、今度は、搾取された側が東大話法モドキを使って、他人を搾取してしまうのです。(p190)
東大話法を使う人はきっと最も搾取されている人たちなんですね。原子力ムラは巨大な利権の構造でありつつ、一方で、相互に搾取しあう関係が暴走するムラ、ということなのではないかと思いました。

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